第1章 千夏様
「灰原に二人のけんかを止めるように言われてきました」
「今日は機嫌がいいみたいだね。いい笑顔だよ」
傑の悪いところは、人をけなす裏に悪意がないこと。
可愛い言い方をすれば、天然なのだ。
「おいおい、傑ぅ。日曜のこの時間に外にいて、千夏の機嫌がいいわけないだろ」
「さっすが。よく分かってんじゃん」
私が座り込む五条を見下ろしたとき。
後ろの方から先生の声がした。
「あっ、せんせーい。さっきぶりだね♪」
先生の後ろには数分前に別れたばかりの灰原がいた。
灰原から先生に視線を移すと、先生は何とも言えない微妙な面持ちになっていた。
「お前のその変わりようはいつ見ても気味が悪い」
「呪霊とどっちがキモイ?」
先生は何も言わなかった。
別に答えを求めていたわけではないので、返事はいらない。
逆に、返事をしてしまったら、私が怒り狂う未来が見えているので、安全な道をたどったのかもしれない。
「先生。この2人のケンカ、私が止めました!」
「……俺はそれを聞くためだけに連れてこられたのか?」
「別に私が呼んだわけじゃないよ」
「えっ」
先生の横にいた灰原が声をあげた。
「俺は八乙女さんに言われて…」
「私はそんなこと言ってないよ?」
「あ、あれぇ…」
優しく灰原に笑いかけると、先生からげんこつが落ちてきた。
「いっつ!てめえ…」
「術式で遊ぶな」
「遊んだわけじゃねーし…」
頭がずきずき痛む。
体罰撲滅というのは呪術高専に適応されないのだろうか。
「ケンカは許されるのに。不平等!」
「許してるわけじゃない」
先生はクズ2人を睨んでから、Uターンをして帰ろうとした。