第43章 優先順位
『ピコン』
右耳から着信音。
メッセージだ。
”大丈夫?”
野薔薇からだった。
(ハァッ…ハァ)
震える手でしっかりと携帯を握り。
大丈夫だよ、と返信した。
平気だ。
私は平気なんだ。
しばらくすると呼吸が整い、汚れた場所に土をかぶせる余裕が出来た。
「ふぅ」
すると、活力がでてきて。
彼らの生還が現実であることに対する喜びがふつふつと湧いてきた。
そんなとき
『千夏』
落ち着いた声。
「何でしょう」
『虎杖悠仁が生きていたことは』
「確認済み」
冥冥さんの声は、私のモードを切り替える。
『作戦変更』
「はい?」
『今すぐA地点に向かい、楽巌寺学長にアレを渡しなさい』
「は?」
京都校の学長?
冥冥さんからその名と小瓶が同時に出てきたことに驚きだ。
『返事は』
「…一体何する気なの?」
『知りたい?』
「…聞いたら反対するかもよ?」
『ふふ。反対するだろうね』
私が反対する…。
ギリっと奥歯が嫌な音を立てた。
「いくら冥冥さん相手でも、私は私を裏切らないよ」
『勝手にすればいい。これは私と彼の契約だ』
飲み込むのに0.5秒。
噛み砕くのが1秒。
挑発的な笑いが漏れたのは、その2秒後。
私も頭の回転が早くなったものだ。
「ほんと性格悪い」
『以上。最低限、私のカラスに写らないよう努力して欲しいね』
「はいはい。言っておくけど、契約破綻でビジネスが失敗しても、代償は払わないよ」
『結構。前払いだから』
「…大人って怖っ」
『金は信頼の証だよ』
「その信頼を裏切るなんて、さすがですねぇ」
『裏切るわけじゃない。千夏のワガママ、さ』
酷い言い様だ。
そう言い返そうとしたが、直ぐに通話が切られてしまった。
本来はずっと繋いだままの予定で、バッテリーも用意していたというのに。
作戦変更に伴い、本当に冥冥さんは私を自由に動かすつもりらしい。