第43章 優先順位
残念ながら、可愛い野薔薇に構っている暇はない。
(えっと…)
携帯を取り出して事前に確認した数箇所のポイントを目視で確認。
鳥居の高さが足りず、あまりよく分からなかったけれど、まあいいだろう。
どーせ、冥冥さんは座ってのんびりするだけだし?
自分が動ければ、こんな確認どーだっていい。
(おっ!)
京都校の人達がやってきた。
ということは…。
「きゃーー!歌姫ーーーー!!」
派手に飛び降りて、歌姫の所へ直移動。
「げっ!」
「歌姫っ!」
私の熱い抱擁を受けた歌姫は、出会い早々に私の耳を引っ張った。
そして、耳元で怒られた。
メールくらい返信しろ、と。
「…詳しくは硝子に聞いたけど、あんたの口からも教えなさい…!」
「別れた」
「だーかーら…!!もう、後で覚えときなさいよ…!」
歌姫が怒るのはいつものことだから、気にはしないけれど。
ニコニコ!の他に、てへっと、笑うことも出来る。
こんなにも簡単に。
「で。あの馬鹿は?」
歌姫は悲しげな顔をしていたけれど、そこには悟に対する呆れも含まれていたと思う。
「…歌姫、好き」
「なにそれ…あんた本当に…」
「おまたー!!」
テンションの高い声。
私の胸にグサリと刺さる。
歌姫はあからさまにイラつきを外に出して。
私はそんな歌姫の裾をずっと握っていた。
「はい、お土産。京都の皆にはとある部族のお守りを。歌姫のはないよ」
「いらねぇよ!!」
お前からのお守りなんて誰が使うか、と歌姫は小さく怒りを込めてもらした。
「千夏はいる?」
不気味なお守りを前に出されて。
「いらなーい」
私はそっと突き返した。
「そっか」
去り際に歌姫に何か言っていたけれど、私の耳には届かなかった。
そんな彼の背中は、いつものように大きくて。
あの日の夜につけた愛の印は、今でもあの背中に咲いているだろうか。
そんなことを考えながら、台車を真ん中に移動させる彼を目で追っていた。