第42章 ばいばい
「千夏は、大丈夫だったの…?」
「大丈夫って?」
「千夏の方が、辛かったでしょ」
1度野薔薇にこのことを話しているから。
この話の非現実さを知っているから。
悟の飲み込みの速さと適応力に感服した。
「辛かったし…ずっと泣いてた。人が生き返るなんて夢みたいな話があるなんて…今でも疑ってるくらいだけど、やっぱり……もう1回会えたことが嬉しくて…本当に嬉しくて」
きっと悟たちも喜んでくれると思っているけれど、とても私の口からは言えない。
私にはできない。
「本当に、嬉しくて…。今までたくさんの死と出会ってきた…。もしかしたら、他の人も死んだふりしてて、実は生きてるんじゃないか。死んだ人が生き返る方法があるんじゃないか」
後者に関しては硝子に否定されたけれど、前者に関しては今も疑っている。
もちろん、そんなことはないと否定する自分もいるけれど、希望を捨てられない自分と決別するのは厳しい。
「変な話してごめん」
「ちな…」
シャンシャン…♪
聞きなれた着信音。
悟が高専時代より使用している音源だった。
「…はぁ」
悟が嫌そうな顔で携帯を耳に当てた。
私の背中に手を伸ばしたまま…。
「あーわり。今忙し……そうだけど。お前、本当に嫌な奴だな……はいはい、わーったよ」
口が漫画のようにへの字になって。
ぶっきらぼうに渡された携帯には、『七海』と表示されていた。
私が出ていいのかジェスチャーで聞くと、これまた不機嫌そうに携帯を押し付けられた。
「な、七海ちゃん?」
『体調はいかがですか』
「すこぶる絶好調だけど…」
『…ならいいですが』
私が倒れて発見されたことは、あっという間に情報が回り、多くの人を心配させた。
そのうちの一人が七海ちゃんで、色々安定したら連絡したのだがつながらず。
これが久しぶりの会話だった。
『中々電話に出られず、すみません』
「七海ちゃんも忙しいからね。全く問題ないよ。心配してくれてありがと」
『…今、五条さんといるんですよね』
「そ、そうだよ」
七海ちゃんは”それに関してですが”と、前置きをして少し間を作った。