第42章 ばいばい
『私なんかが口を出すのは、お門違いだと分かっていますが。いい加減仲直りしてください』
「…」
『…聞いてますか』
「…」
『……話ならいつでも聞きますから。子供には話せないこともあると思いますし』
「…あり、がと」
『…ではまた。五条さんに代わって貰えますか』
悟に電話を渡す。
七海ちゃんがこんなことを言うなんて、初めてのことで。
私と悟の関係が2人のものだけでないことを、思い知って。
「千夏」
悟が携帯をポケットにしまって。
私を包み込む。
温かくて、冷たい。
それでも、寄り添っていたいと思うような矛盾がここにはあって。
「…僕には千夏しかいない」
でも、その矛盾が心地よくて。
それがどんな結果をもたらそうと、悟との繋がりを表してくれるから。
「…千夏が秘密を告白してくれたから。僕も…秘密を打ち明けないといけないと思う」
「いい。言わなくて、いいよ」
「…ダメだよ」
私は悟の秘密を知りたいから、秘密を打ち明けたわけじゃない。
秘密の重さに耐えきれなかっただけ。
「…この話は高専の時からあった」
「いいってば」
「話したいんだ。聞いて?」
おでことおでこを合わせて。
声も手も。
全てが不安定に震えていて。
「僕のところには…何度も暗殺の話が来た」
「…」
「もちろん、どの仕事も任務も引き受けなかった」
キスをしたかったけど。
それよりも、もっと。
悟の全てが欲しかった。
「その対象には……千夏もいた」
「…うん」
「…馬鹿だよね。僕が千夏は愚か、殺しなんてするはずないのに。なのに、内密な依頼だけは飛ぶようにきた」
何故か私が泣いた。
辛いのは悟だけれど、胸が締め付けられて。
この世界に絶望してもしきれないことに、気づいて。