第42章 ばいばい
「千春に何かあったの?」
「…ううん。何にも」
「…話したくない?」
「…うん」
話したくない、というか。
話せない。
この考えを伝わるように言葉に直すのは、まだ私には難しい。
「悟はいなくならないでよ」
「…」
「どうして、何も言わないの?」
「…千夏は僕と一緒にいると、危険な目にあう」
また、息が苦しくなる。
最近、呼吸が苦しくなることが多い。
昔から極度の心的ストレスがかかると、体に異変が訪れることがあったけれど、その頻度が異常だ。
「それ、は悟のせいじゃないって何度も言ってるでしょ」
「僕の知らないところで千夏が傷つくなんて考えたくもない」
そんなこと考えてたら何も出来ない、と言ってしまいたかった。
でも、私が自ら傷つきに行った過去があるから、そんな大きな声で言えない。
言葉に詰まって、息も止まる。
息の吸い方が、分からない。
「それに、この前だって。男に会ってたんじゃないの?千夏は僕と同じ気持ちではないかもしれない、違う所に寄り添う方がいいんじゃないかって考えたら、止まらなくなる」
「…違う」
「他の男と一緒にいる千夏なんて想像もしたくない」
「う、浮気なんてしてないっ…ゴホッ」
「僕だって疑ってない。でも、疑ってる。最低だって分かってるけど…」
「違う、違う…」
全部、全部、誤解されてしまっている。
けれど、言う訳にはいかないこの秘密。
思わず口から溢れだしそうになる。
だかろ、別の言葉で。
上っ面だけの言葉に聞こえてしまうかもしれない本心を。