第5章 空蝉
ジジジジ。
ジジジジジジジジ。
「もう夏だな」
「夏だよ」
リーン。
リーンリン。
「夏の匂いがする」
「どんな匂いだよ」
「夏の匂いは夏の匂いだっつーの」
「俺の高尚な頭脳では、理解できないようだ。キラッ」
「考えるな、感じろ」
お菓子などが詰まった袋は五条が持ってくれている。
何も言わずに、ごく普通の流れで持ってくれたのだ。
「もう食べちゃった」
「ここ入れたら?」
アイスを包んでいたビニールで棒を包み、レジ袋の中に突っ込んだ。
そして、五条も同じようにしてゴミをまとめた。
「なんか物足りないないなー」
「なんか食べればいいんじゃない?沢山あるんだし」
「うーん、なんか違う」
なんだそれ、と思った反面、確かにと思った。
今食べたいのは冷たいもので、チョコレートとかチップスではない。
「夏って言えば、私の季節だね」
「”千夏”だから?」
「そう」
千通りの夏を越して、立派な女になって欲しい。
名付けた人から聞いたことは無いが、そんな願いが込められているのではないかと、私の両親が言っていた。
そして、その由来を私は気に入っている。
「千年って長いかな」
「もしかして、千年生きようとしてる?」
「そうだけど」
ビニールがカサカサと音を立てた。
五条の肩の揺れに合わせて、カサカサ、カサカサ。
「いいと思うよ。すごく、いいと思う」
「爆笑されながら言われても、嬉しくないんですが」
五条の大きな手が、五条の顔を包んだ。
そして、ヒラヒラと空気を払って。
体の横に置かれた。
その動きに合わせて、私の視線も動く。