第5章 空蝉
「千夏って本当にバカだと思う」
「私もそう思う」
五条が私を見下してくる。
それがたまらなく嬉しい。
メゾスティックなわけではなくて、五条が私を見てくれていることが嬉しいのだ。
五条の片手にはビニール袋。
もう片方はフリー。
そして私の両手は言うまでもなくフリー。
さっきから五条の手ばかりみてしまうのは、意識しているから。
触れないような、触れてしまうような距離を保っているのも、意識しているから。
ちょこんと、小指がぶつかった。
「でも、五条もバカだから」
「どの辺が」
「全部」
でも、会話は途切れない。
こんなことで一喜一憂するのは、私だけだから。
「いやいや、千年生きようとしてる奴には負けるっしょ」
「科学が発達したら、生きれるかもよ?私は凡人と違って、そのための心の準備ができてるの」
段々、手が触れる回数が増えてきた。
増やしたと言った方が正しいかもしれない。
「でも、まぁ」
そっと五条の手に触れてみた。
五条の大きな手に包み込まれたいと言うように、そっと掌を添えた。
「五条がいない世界では、生きてても死んでるようなもんか」
手が組み合わさり。
指と指の間が埋まり。
お互いがお互いの手を握りしめた。
カサカサ。
リーンリン。
ジジジジジジ。
ザッザッザッ。
「もう夏だな」
「夏だね」
もし、前から人が歩いてきたら、是非聞いてみたい。
私達、どういう関係だと思う?って。
恋人って言われたら、どうしようか。
正解って言っても怒られないだろうか。
まだまだ夏は始まったばかりだ。