第41章 蝶蝶喃喃
「やあ、千夏。今日はおしゃれだね」
「冥々さんもね」
「ふふ…」
「言いたいことあるならどーぞ」
「なんでもないさ。ふふ…」
いつもの運動着とはうって変わり、スポーティーなのは変わらないけれど、それなりに似合う服を着てきた。
『これ、学長から』
別れ際に投げ渡された袋の中に入っていた髪飾りも。
そして、悟からもらった唯一のアクセサリーも、もちろん身に着けている。
気合くらいいれるさ。
交流会で不穏な空気を出さないための、仲直りする最後のチャンスなのだから。
「あ、学長~!」
座布団の上に腰を下ろして難しい顔をしていた学長の顔に、さらにしわが寄る。
「髪飾り、ありがと!めっちゃ可愛いね!」
「喜んでくれて嬉しいよ」
学長の視線は私のおでこに。
大きな絆創膏が貼ってあるところだ。
「…席の位置、変えるか?」
「別にいい。どーせ寝ちゃうもん」
「寝るな」
学長との間に一つ座布団を挟んで、腰を下ろした。
「…誕生日おめでとう、千夏」
「ありがと、学長」
いうまでもないと思うが、今年の誕生日は一人で過ごした。
ケンカしたのは誕生日の1日前。
誕生日パワーで仲直りできるかもしれないと期待して接触を試みたけれど撃沈。
おめでとうの一言すらない。
確かに”今までで1番の誕生日”。
そこから今まで悲しいほど単調な日々を過ごしてきた。
「冥々さん…眠い」
「まだ何も始まってないよ」
「昼ごはん食べすぎた…」
そんな会話をしていると、外が騒がしくなり襖が開いた。
「殺さない程度にぶちのめす。以上!」
「そういう場じゃないって言ってんだろ。…同意見だけど」
「お前ら、燃えてんなぁー」
野薔薇、恵、真希、棘、パンダ…。
入ってくるみんなに手を振って。
みんなは順に、私たちの向かい側に座っていく。
その最後尾には例の男が。
私だけでなく、野薔薇たちの顔も引きつっていた。
彼は私と学長の間に座って、長い足を器用に折りたたんだ。
「遅刻しなかったんだ」
「流石にね」
二週間ぶりの会話。
けれど、目が合うことはなかった。
しかし、これだけで満足した自分がいる。