第41章 蝶蝶喃喃
外のカフェというのは、ひとつしかなくて。
迷うことなくそこに向かったのだが、何故かふたりは店外にいた。
「先入っててくれてよかったのに」
私のことを待ってくれていたのだろうかと、淡い期待を寄せていたがそれは大きく外れた。
「早く駅前のデパート行こうよ」
「カフェは?」
「いーから」
野薔薇の気分屋には呆れてものも言えない。
既にカフェで休憩するという案は消えてしまったようだ。
恵に同調を求めたが軽くスルーされて、駅前のデパート内にある行きたいお店を携帯で見せつけてきた。
「八乙女さんって映画好きですもんね」
「そうそう。家にビデオあるから、貸そうか?」
「交流会終わって一段落したら、お願いします」
ちなみに、絶賛仲違い中の私達はただいま別居状態。
悟は本家で寝泊まりし、私は1人寂しくベットで寝ている。
悟が帰ってきてくれればいいけれど、当分期待できそうにない。
「あっ…」
野薔薇が小さく声を漏らした。
それに反応した恵。
「何?」
2人は通じあっているようだけれど、私には何が何だか…。
(…なるほど)
通りの向こうには私の彼氏の姿。
横には綺麗なお姉さん。
私の視線に気がついたのか、2人は気まずそうに目を見合わせていた。
「多分、家の人でしょ」
そう言って、私は順路を外れて横道に入った。
2人は自然とついてくる。
「…ねぇ」
ずんずんと進む私の肩を掴んだ野薔薇。
その刺激に液体が頬を伝った。
「ごめっ…」
なんで。
なんでこんなことになってしまったのだろう。
「ちょ…」
「釘崎、あっちに公園」
「りょ、了解」
傑のことを言えばよかったのだろうか。
彼の死を1番嘆いたのは悟なのに。
無になって言うべきだったのだろうか。
おでこが痛い。
お腹もおしりも痛い。
けど、1番痛いのは胸。
心の痛みだけは、私では治療できない。
悟じゃないと、できない…。