第41章 蝶蝶喃喃
「おせーよ」
「先輩たちのせい」
恵が遠慮がちに頭を下げた。
だから私は控えめに笑った。
「伏黒も来たことだし、映画行くかー」
「何見んの?」
「コイツが見たいっていう、ファンダ…なんとかってやつ」
3人してラフな格好をして、平日の真昼間に出かけられるのは、数日後に控える交流会のおかげ。
2人とも今日はオフだと言って、貴重な時間を私にくれた。
「あれ食べよー」
「俺も食いたいです」
「…はいはい」
掴み合いと言っても、初めはお互いが体を押し返す程度。
暴力が何も生まない事は分かっているから、決定的な打撃等はどちらもしない。
けれど、私が悟の体を押す際に無意識に少しばかりの呪力を込めてしまったことが発端で。
悟は反射的にガードして、反撃を繰り出す。
当たれば窓ガラスなど簡単に割れるほどの呪力の塊を飛ばしてきて。
それが悟が出せる最小出力なのであることは分かってる。
私も呪術師であるから避けられるけれど、如何せん距離と相手が悪くて、モロに塊を食らって、1mほど吹っ飛んだ。
元々頭に血が上っていたせいで、冷静になんてなれるわけなくて。
一足先に落ち着きを取り戻した悟に向かって、考えるより先に私も呪力を飛ばした。
幸い、そこは高専敷地内であり、すぐに私達は引き離された。
けれど、既にお互い負傷していて。
次の日に悟と顔を合わせた時、お互い湿布とガーゼだらけだった。
可愛い小学生がこのような結果になるのならいいけれど、私達はアラサーのいい歳した大人だ。
一部の人は引いていたが、私達をよく知る人々は揃って心配し、仲介役に立候補した。
今まで口喧嘩もほとんどしない仲であったから、余程心配してくれたのだろう。
私自身も、悟が感情を露わにすると、ここまで立派な喧嘩になるのだと驚いたものだ。