第41章 蝶蝶喃喃
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真昼間にこんな都会にいるなんて久しぶりだ。
高専周辺は自然が多いから、こういうビル街に身を置くと少し身構えてしまう。
「これ食べたい」
「…ったく。私はあんたの財布か?」
「ありがとー」
私は親バカだから、大抵のものは買い与えてしまう。
貯金はまだまだあるから大丈夫だけれど、そろそろ働かないと人間として終わる気がする。
「おっ、今から伏黒来るって。今連絡きた」
「じゃあ、あそこのベンチで待ってよ」
「位置情報送るわ」
チョコ味とシナモン味。
長いチュロスを片手に、日を避けるように日陰のベンチに移動した。
「おっこいしょ…いてて」
「まだ傷痛むの?」
「ほとんど治ってるよ。でも、立ったり座ったりする時に少し痛む」
アイスコーヒーは冷たく、頬は火照り。
夏の暑さにやられた私にとって、この日陰はご褒美に近い。
「…あんたが独り身かぁ」
「別れてないし」
「ふぅん」
「野薔薇。やめて」
「…はいよ」
私達が別れを選ぶことは無い。
絶対にない。
でも、実質的に離れることはある。
そんな可能性があったことを、つい最近知った。
私が気持ちを声にしてボイスメッセージを送り、それを悟が聞いてくれた。
今回の非は私にあるのだから、悟が話を聞いてくれるまで待ち、必要であれば私から歩み寄ろうとした。
けれどそんな段取りは必要なく、優しい悟はすぐに私のところに来てくれて、長い話し合いをした。
話し合いと言っても、亀裂の根本的な部分を避けて、私達が離れていた10年間の話だけ。
よく笑った時間だと思う。
それだけで時間は簡単に潰れた。
正直、その時の私は千春がいなくなったことに不安を感じていて。
1度は千春のことは一旦置いておこうと思ったけれど、そんなことは出来なかった。
私が上の空であることを感じ取っていた悟は、優しくも厳しい言葉を何度も何度も語りかけるように言ってくれた。
でも、それは徐々に私たちがお互いに隠そうとした亀裂を逆撫でする。
お互いがお互いの幸せを望み、最悪な結末を避けたくて。
すれ違う意見と激しくなる口論。
気づけば、荒ぶる狼のように相手に掴みかかり、怒号をあげていた。