第5章 空蝉
肩を落としたまま、手紙の元へ戻り内容を把握する。
(なんで沖縄…)
細かい説明がないことに怒る元気もなかった。
さっきのダメージがなかなか消えない。
手紙を持ったままベットに入る。
文字を指でなぞっては、五条のことを思い浮かべ。
五条のことを思い浮かべては、文字を何度も繰り返し読んだ。
今から電話したら話せるだろうか。
多分無理だろうな。
電話できないからメールしといて、と書いてあるのかもしれない。
沖縄に行く理由も、あの女の子か誘拐された黒井って人に関係しているだろうし。
(沖縄って言ったら何だろう。紅芋タルト?ちんすこう?シークァーサー?)
食べ物しか出てこない辺りで、既に乙女てして終わっているだろうか。
シーサー、琉球ガラス、貝殻…。
正直、五条から貰えるならなんでもいい。
『私にピッタリだと思うお土産買ってきて』
100円でも200円でもいい。
その辺に落ちてる砂とか、ハイビスカスでも。
本当に何でも良かった。
打ち終わったメールを推敲して、送信ボタンを押す。
そこで初めて気がついた。
(私、あの2人の心配してない)
皆が知ってる有名なお方、天元様直々のご指名による任務。
実際に人が誘拐されている。
五条と傑がいてもなお、人が誘拐されているのだ。
危険な任務だということは、それだけで十分に分かる。
なのに、私は全く2人の心配をしていない。
毛ほどもしていない。
『俺たち最強だし?』
傑と肩を組みながらそう言う五条を見て、いつもイライラしていた。
認めたくなくて。
五条の隣に立てないことを認めたくなくて。
でも、認めざるを得なくて。
『もう夏だな』
突然、遠くから五条の声が聞こえてきた気がした。
何の変哲もないある日の夜。
ただ、2人でコンビニに出かけたあの夜。
そんな普通の日が何故か思い出されて。
私は再び眠りに落ちた。