第40章 宵闇
「僕に嘘ついて、どこかに出かけて、知らぬ間によく分からない結界内で倒れてるし。どれだけ心配したと思ってんの?」
千夏の体がビクッと跳ねた。
「ごめん、なさい」
「謝ってほしいんじゃなくて。僕に嘘ついてまで、危険なことする…させられることなんてある?」
「ち、違う!上は全く関係ない」
「…本当に?」
「本当に!これは、私個人の問題」
ここで上が関連していたら、今度こそ僕は全てを壊していただろう。
七海にはこんなこと言えるわけがなかった。
また止められるに決まってる。
「個人の問題?何それ」
でも、上が関わっていないなら一安心、とはならない。
個人の問題。
そう言われる方が、少々心にくる。
「い、言えない」
「…千夏ちゃん。僕、怒るよ?」
「言いたくないんじゃなくて、言えないの」
今回被害にあったのは千夏自身。
こんな目にあってまで、その秘密を守るのか?
「その秘密が今回のことに関わってんじゃねーの?」
「それは…」
「なら話せよ。そんだけ危ねー秘密なんだろ」
「無理。悟には…話せない」
…は?
俺には話せない秘密?
「千夏」
「話せない」
「何でだよ」
「無理なの。聞かないで」
ふざけんな。
そんな言葉が飛び出そうになった時、千夏の顔を見てハッとさせられた。
今にも涙がこぼれそうな目に、口から垂れた血液。
傷口は血で見えなかったが、唇に歯がくい込んでいるように見えた。
「…それは、僕が傷つく秘密なの?」
ティッシュを数枚取って、千夏の顎を垂れる血を拭いた。
「分からない。けど、私が悟の立場だったら、心が割れそうになる」
「…その秘密を隠して、被害を被るのは千夏なの?」
「…正直、どうして今回みたいなことが起きたのかは分からない。でも、被害を被る可能性だけみたら、私だけじゃなくて……全人類」
「やばいじゃん」
「でも、そんなことは起きないって信じてる」
「信じてるって…。もし起きたらどうすんの?」
「その時は、もちろん私が」
千夏はスイッチが入ったように一気に泣き始めて。
「責任、とる」
と言った。