第40章 宵闇
「七海ってさ、千夏のこと馬鹿にしすぎじゃない?」
「彼女のことは、五条さんより尊敬してますよ。僅差ですが」
そういうとこ。
ぜぇったいに直した方がいいと思うよ、七海。
「彼女が賢いかは置いといて、彼女のような人が増えたら世界は平和でしょうね」
「それは思う。でもその代わり、世界が終わる」
「…それもそうですね」
頭の中がお花畑な彼女がいれば、戦争なんてなくなって世界中で笑顔が溢れる。
その一方で、行政が回らず国が崩壊し、文明が一気に消え失せると思う。
「アイツ、自分の感情に正直だからなー。俺が死にかけた時、暴走してたし」
「…五条さんは?」
「あー、大丈夫大丈夫……って言ったら、千夏に殺されそうだから、ここは大丈夫じゃないって言っとくわ」
七海が面倒臭そうに頭をかいた。
「…貴方が呪術師として最強だからといって、人間として最強である必要はないのでは?」
トクン。
胸が一瞬高鳴った。
って、なんだァァァァ!?
恋?
はぁ?
違う違う。
「お前…」
「何ですか」
「…千夏に手ぇ出したら許さねーぞ」
「はい?」
千夏と同じことを、この七海の口から聞くことになるとは。
嬉しいような、悲しいような…。
でも、僕を見てくれてる人がいるということは、やはり嬉しい。
「せんせー!お待たせー!」
この悠仁の足の速さには七海も驚いたようで、僕をちらりと見てきたけれど、敵にかける情けはない。
「んじゃ、2人とも頑張ってねぇー」
早めの退散。
携帯を開く。
病院からの連絡はない。
(そろそろ目が覚めてもよくなぁい?)
千夏の場所は秘匿。
だから、僕が無駄にお見舞いに行くことは出来ない。
また今日も、千夏の事情を唯一知っている恵か硝子に報告を頼むとするか。