第40章 宵闇
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「じゃあ、後は七海と仲良くね〜」
「分かった!」
元気でよろしい。
悠仁だけでなく、そろそろ恵と野薔薇にも色々課さないと…。
「あ、やべっ。携帯忘れてきちった」
取ってくるねー、と。
悠仁は大きく手を振りながら、人間離れしたスピードで部屋へ戻って行った。
「おーい、君の単独行動は認めてないよ〜」
そんな注意も既に遅し。
まぁいっか、とお得意の適当さで誤魔化す。
「…まさか、本当に生きてるとは」
「僕のこと疑ってたの?」
七海は表情を変えない。
コイツ、笑ったことあるのか?
…笑ったところを想像してみたけど、なんかキモい。
「それで」
七海が目を尖らせた。
「八乙女さんは?」
今1番聞きたくない名前だよ〜。
「さぁ…」
心の中でおちゃらけても意味が無いのに。
何をやっているんだろう、僕は。
「目覚めたら僕に連絡来るようになってるから、連絡来たら七海にも伝えるよ」
「それでは、その時に詳細を」
詳細を、と言われても。
僕も何も知らないのだけれど。
「知ってた?千夏って本当は頭いいんだよ」
「…いや。それはないでしょう」
「いやいや、マジで。そんでもって、隠し事も上手いし」
「誰の話をされてます?」
「千夏の話だって」
千夏は本当に賢い人間。
自分で言っていても、否定する自分が出てくる。
でも、これは事実。
カマをかければ直ぐに引っかかるし、隠し事をするとお手本のように目が泳いで、小学生レベルの知識すらも頭に入っていない人だけれど。
彼女は本当に賢い。
人間として必要な能力だけは、その時に必要な力を得て不要なものを捨てる能力だけは。
いつも鋭く、馬鹿面で笑う彼女の目の奥で光っている。