第39章 咲かぬ桜
しかし、時間だけが過ぎていき…。
僕は確率的な選択を選んでしまった。
「…とりあえず、1回攻撃してみよう」
「了解です……玉犬!」
守る結界ならば、結界が想定した以上の力で叩けば壊せる。
「…ダメです」
恵が無理というのなら、恵以上の強さが必要。
しかし、上限が分からない。
もし、この結界が千夏によって作られたものならば、千夏以上の力が必要となるが、そんな力で叩けば千夏ごと吹っ飛ぶ。
「術式順転…赫」
呪力出力を出来るだけ抑えて、結界の上部を狙った。
これで結界が壊せるなんて思っていない。
ただのやけくそだった。
「五条先生…あれ…」
恵が千夏を指さした。
『ぅぅぅぅうううううあああ!』
千夏が頭を預ける木の周りを蠢く何か。
耳が痛くなるほどの声を上げ、それと同時に結界が崩れていく。
「まさか…千春?」
いや、違う。
千春はもっと人間らしかった。
この姿はどちらかと言えば、リカに近い。
僕が名を呼んだからなのか。
千春らしい何かが僕達の足元に移動してきた。
『いいますぐぐぐ、ちちちなつををを…』
「分かってる。らしくないよ、千春」
『……ででんごん。あいいつののせせいぃ…』
「アイツ?」
『ささくくくく…らは、さかかない』
そして、千春が消えた。
千春の様子がおかしかったことも気になるけれど、それよりも、何よりも…。
(千夏…!)
急いで千夏に駆け寄り、体についていた霜を払った。
脈を確認したが、それは微弱なもので。
か弱く、長い間隔で…反応していた。
「千夏…、千夏…?」
こんなに気温が高いのに、冷えている体。
腕を擦りながら包み込み、頬を適度に叩いた。
でも、千夏は目を開けない。
「千夏…」
ダメだ。
今すぐ何か対処しないと。
後ろを見れば、恵が一般人を遠ざけてくれていた。
「恵!近くの病院…」
「了解です」
頭が回らない。
恵が賢くて本当に助かった。
どうして…。
千夏はこんな姿になったんだ…。