第39章 咲かぬ桜
山梨と長野の県境付近。
恵と合流した。
「状況は?」
恵は伏し目がちに、目の奥を光らせて強い声を出した。
「八乙女さんが」
そこまで聞いて、僕は恵の肩を叩いた。
先程から感じていた嫌な気配。
懐かしむ反面、急ぐ必要があった。
昔とは違う、新たな危惧要素が気配に含まれていたからだ。
そっちの方向にガムシャラに移動した。
恵がこっち方面に出かけていて良かったと心底思う。
「移動しながら教えてもらおうか。何があった」
「…普通に任務に専念してたら、嫌な感じがして。ありえないと思ったんすけど…八乙女さんの雰囲気がして。任務を終えてから興味本位で覗きに行ったら…」
「行ったら?」
「……無理です」
説明できない、と。
「どういうこと?」
「見た方が早いです」
「…じゃあ、スピードあげるよ」
なんなんだ。
千夏の安否はもちろん、この雰囲気…。
”千春の存在がおかしい”
初めて体験する恐ろしさだった。
姉妹喧嘩?
違う。
千夏はともかく、千春は場所を選ぶはず。
もっと人里離れた場所でするはずだ。
今まで死を恐れたことは無かった。
死にかけたことはあるけど、自分が誰かに殺されることに関して、心配したことがない。
だから、どんなに強いと言われる相手でも、怖気付くことはなかった。
でも、今は違う。
手が震えて、吐き気がする。
胸の辺りが不安定で、近づけば近づくほど叫び出したくなる。
千夏を失いたくない。
千夏に何かあったら、僕はどうなってしまうのだろうか。
嫌な想像だけが思い浮かぶ。
「大丈夫です。多分、死んでません」
「…多分、ね」
これが精一杯の慰めだと言わんばかりに、恵は眉間に皺を寄せた。