第39章 咲かぬ桜
角を曲がると、そこに傑の姿は無かった。
「あ、あれ?」
確かに傑はこっちに曲がった。
慌てて振り返ろうとした、その時だった。
「あ、やっと来たぁ」
ぶわっと毛が逆立つ。
瞬時に足に忍ばせていた呪具を手に取った。
「八乙女、千夏だよね?」
けれど、動けなかった。
喋る呪霊。
「あはっ。本当に祓えないんだね」
コイツはヤバい。
それは分かっているのだけど。
やっぱり体が動かない。
「こんにちは」
「…こんにちは」
ツギハギの顔に少しだけ頭を下げた。
「そんなに。喋れるの、凄いね」
「珍しい?」
「うん」
すると、突然ツギハギ呪霊に呪霊が突っ込んで行った。
「千夏!」
傑の呪霊だった。
肩を引かれて、体勢が後ろに傾いた。
そして。
急激な眠気に襲われた。
最後に見たのは傑の背中。
受け身も取れず、背中とお尻に走った痛みが最後の感覚だった。
「ったく。演技なんだから手加減してよ」
「すまないね」
「例のやつは?」
「この手に」
「計画成功だね。んで、この女はどうするの?置いてく?」
「それでもいいけど、なるべくこの場に残穢は残したくない。運ぼう」
「りょーかい」