第39章 咲かぬ桜
「五条悟…。悟はなんて言ってた?」
「何について?」
「宿儺の器の死について」
傑も悠仁のことを気にかけていたのだろうか。
「別に普通だよ。どうせ上層部が仕組んで悠仁を殺したんだから、それに対してはめちゃ怒だったけど」
「2人ともよく耐えたな。いつ上層部暗殺事件の噂が届くかヒヤヒヤしてたよ」
「ね。本当にすごいと思うよ。私は悠仁が死んだのと、傑が生きてるのを知ったのが同時だったから、死の方にあまり振り切らなかったの」
少し空気がひんやりしてきて、視界も悪くなってきた。
すると、突然傑が立ち止まった。
「千夏、ちょっと」
手招きされて傑に近づくと、そのまま腕を引っ張られた。
…チッ
そして、首筋にチクッとした痛みが走った。
「なっ…!」
この痛みを知らないわけではない。
でも、傑を前にして感じるような痛みではなかった。
「全く。君は本当に危機感がないね」
そして、何事も無かったように傑は歩みを進めた。
ため息をひとつ残して。
「傑!」
傑はケタケタと笑って、右腕を立てていた。
その指先でクルクルと何かが回っている。
少しだけ近づいて目を凝らすと、それは私の首元にあるはずのもの。
「え。いつの間に…」
駆け寄って返してもらおうとすると、傑は片手で私の腰を引き寄せた。
「す、傑?」
「…学ばないね」
今度は首ではなく耳に。
耳を噛まれて、高くてヘナヘナとした声が出てしまった。
慌てて胸を押し返し、耳を抑えながら睨む。
「傑…なんか今日変だよ」
「くく…。ほら、早く行くぞ」
恨めしい笑い方をして、傑は先へ行ってしまった。
傑の様子がおかしい。
今までこんなことしてこなかったのに。
このまま傑といるのは危険だろうか。
これ以上変なちょっかいを出されたら、傑と気まずくなる。
少し歩いて出口に戻ることも出来る。
でも、私は傑について行くことを決めた。
なぜなら、ループタイを返してもらってないからだ。
それを受け取ったら、なるべく早くここを出ることを決意した。