第38章 心臓
夢を見た。
そこには髪の毛が肩辺りまで伸びた私がいた。
隣には少しだけ幼い顔をした悟がいた。
私達はとある住宅街にある公園の、小高い丘に寝そべっていた。
「寒い?」
「ううん」
この時、本当は寒かったけど、こう返事をした記憶がある。
こんなことを考えていた訳では無いと思うけれど、不思議そうと感じていた。
とにかく、忠実にあの時が再現された夢だった。
なんでこんなところで寝そべっているのかは知らない。
空は曇っていて星や月が見える訳でも無いし。
どちらかと言うと、雨が降りそうな空だ。
「ちょっと怖いな」
私の口が勝手に動く。
「怖がり」
「うるさい」
目を閉じた。
近くの道路を走る車の音が時々響いて、遠のく。
自分の呼吸が激しいものに感じた。
「寝るなよ」
「こんな寒いとこで寝るバカがいるか」
「やっぱり寒いんじゃん。ほら」
顔にぼふっと乗っかった何か。
少し温かくて、悟の匂いがした。
それを顔に押し付けて大きく息を吸うと、横から”変態”と声が飛んできた。
少しだけ布をずらして横を見ると、肩肘立てて横たわり口角を上げた美形がいた。
「千夏」
「何」
「待っててよ」
「…」
「俺、頑張るから」
雨が降ってきた。
無防備な膝下の肌に水滴が当たる。
「やべっ。そろそろ帰ろー…」
「…」
「ほら、立って」
「…」
「濡れるよ」
「…」
「…わーぁったよ」
ドスッと音がした。
毛布の下で。
私は静かに笑った。
「風邪ひいても知らないからな」
「その時は面倒見て」
「はぁ?やだよ」
「クズ」
「…やっぱさ、言葉遣い直してよ。らしくない」
段々と雨足が強くなってきた中、私はゆっくり目を開けた。
その直後、目に雨水が入って、少しショボショボした目を擦った。
失敗を学ばず、それを数回繰り返してから横を見ると、悟の白いパーカーが灰色になっていた。
「明日は、晴れるかな?」
悟はちっとも目を合わせず、ぶっきらぼうに言った。
「だから、頑張るっつったろ」
「…はぁ?」
「もういい加減帰るぞ、立て」
悟の質問に答えなかったから不機嫌なのか。
とにもかくにも、夢はここで終わった。