第38章 心臓
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「はよ起きろ、バカ」
目覚めは最悪。
野薔薇の蹴りがおしりを直撃した。
夢で得られたであろう、謎の高揚感だけが私の救いだった。
「真希先輩たちに呼ばれてんの。早く出てけ」
「あー、交流会の?」
「そ…」
ドンドン!
「野薔薇ー」
声を聞いた野薔薇は口をへの字にして、来客を出迎えた。
「おせーぞ。まさか今起きたんじゃねーだろーな」
「私は起きてましたよ。でも、あっちが…」
死角から顔を出すと、親指をこちらに向けた野薔薇と、いつも通りの真希がドア付近に立っていた。
「なっ…!?千夏さん…!?」
「やっほ〜、真希」
「帰ってきてるなら連絡くださいって」
「んー、ごめんごめん」
野薔薇は毛虫でも見るような目で、こちらを睨む。
私が真希と話して何が悪いというのか。
どうせ”お前が慕われてるとかないわー”的なことだろう。
「今日は暇なんすか?」
「ごめーん。今日は予定が…」
「真希先輩、真希先輩。こいつ、浮気してんすよ」
「野薔薇!それはないって言ってんでしょーが」
「冗談だろ」
着慣れたショートパンツに、ダボッとした大好きなキャラクターのTシャツ。
軽く化粧をしてピアスをつける。
今日は猛暑ということで、真っ黒の長い髪の毛は後ろで1本にまとめた。
首にループタイがかかっていることを確認して。
「じゃーね。また泊まりくるよ」
「来んな」
「千夏さん、また…」
「うん。時間取れたら真希に連絡するよ」
こうして、私は寮を離れて高専の車を無断で拝借。
これが初めてではないし、怒られたこともないので、特に断りはいらないと判断。
しばらくノリのいい曲を聴きながら車を走らせ、山梨県のとある場所に車を停めた。
「おはよう」
「おっはー。その格好、暑くないの?」
車はここに置いて、私の質問を無視した男の呪霊に乗って移動。
「ちょっと…」
「ん?」
男に抱きついて、心臓の音を聞く。
「なんだい?」
「…ううん、何でもない」
「…しばらくこうする?」
「…お願い」
やっぱり生きてる。
傑は幻じゃない。
大丈夫。
彼は生きてる。
ここに存在してる。