第38章 心臓
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「えっ。私、可愛くない?」
「こっちのフィルターの方が盛れるよ」
3.2.1の合図とともに、私は目を大きく見開いて携帯のレンズを見た。
しかし、フィルターの効果で大きくなった瞳が、不自然に見開かれて、あまり出来のいい写真とは言えなかった。
「やっぱり最初に撮ったのが良いよね」
「そーだね。さっさと送ったら?」
野薔薇から送られてきた写真を、そのまま悟に転送した。
しばらく待ってみたが、既読にはならない。
まぁ、忙しいのだろう。
ん〜と伸びをして、床にしかれた布団に横になった。
「そういえば、こうやって2人でお泊まりするの、初めてだね」
「…」
ガン無視。
体を起こしてベットに横になる野薔薇を見ると、肘をつきながらファッション誌を見ていた。
「ちょっt…」
「それで?」
「…それでって…何?」
野薔薇はチラリとだけこちらを見て、気だるげにファッション誌をめくった。
「何があったの?」
「別に?」
「んなわけねーだろ」
「何かないと、野薔薇の所に来たらダメなの?」
「お前はそんな女じゃない」
いい音を鳴らしてファッション誌を閉じた野薔薇。
私の耳に大きなため息が届いた。
「あのねぇ。昨日のこと、懲りてないの?」
「懲りるも何も…。私、全然平気だったよ?」
「それはあんたが強すぎるから!そうじゃなくて…!あーもーー!何であんたのことで、こんなにイライラしなくちゃいけないの!?」
今にもファッション誌を破きそうな勢いだった。
「本当に何もないんだよ。ただ…」
「…ただ?」
器用に眉を片方だけ上げて、睨みつけてくる野薔薇。
私も器用に眉を8の字にして、申し訳なさそうに笑った。
「今は悟に会いたくなくて」
「喧嘩?」
「んーん」
気持ちいいほどの笑顔を浮かべた私を警戒する野薔薇。
「…何があったわけ?」
「言えない。でも…とっても嬉しいことがあった」
悟に会ったら、気付かぬ間に口が滑ってしまいそう。
それに、悟に隠し事はしたくない。
だから、傑が決心してくれるまで、できるかぎり悟と話したくない。