第38章 心臓
「それに、今回の千夏、なんかおかしいんすよ」
「おかしい?」
「昔だったらしばらく部屋にこもって泣き続けてた。でも、今回は…」
まず、昨晩の時点でほとんどいつも通りだった。
元気はなかったけれど、普通にふざけていた。
極限まで暴れたとしても、昔だったら千夏はまだまだ暴れようとしたはずだ。
そして、今朝も普通だった。
朝ごはんを作って、眠そうに欠伸をしていた。
「学長から見て、どうでした?」
「違和感はあったな。けど、冥冥が言うには、虎杖の件はあまり引きずってないように見えたとか」
「まさか」
「冥冥も千夏のことは知ってるからな。それをも上回る何か嬉しいことがあったと推測していた」
千夏は冥さんのビジネスパートナー。
ビジネスの詳細は知らないけど、千夏は以前からは想像できないくらい冥さんに懐いている。
「嬉しいことについて、冥さんは何か言ってました?」
「特に。俺も心当たりがない」
人の死を打ち消すような嬉しいこと。
あの千夏が思わず嬉しいと感じてしまうこと。
僕にも全く分からなかった。
その事も聞きたかったし、単に千夏の状況が心配だったため、僕は悠仁の所に行く前に、急遽家に帰ることにした。
しかし、千夏は家にいなかった。
連絡してみると、今夜は野薔薇の所に泊まるらしく、家には帰っていないとのこと。
廊下が少し汚れていること以外、特に異変はない。
千夏がいないなら家にいる必要はないと思い、テーブルに置かれた卵パックをゴミ箱に捨ててから家を出た。