第38章 心臓
「何か問題でも?」
「いーや。2人が美味しいもの食べるなら、私も夜ご飯は奮発しようかなーって」
「おいおい。これは何ご飯だ?」
「おやつご飯」
千夏はメニューを開いて、球状のメロンがいくつも乗ったパフェを指さし、食べたーいと俺の目を見てきた。
「…いいぞ」
「やった!」
冥冥が呆れた様子で女将を呼んだ。
千夏には何かと同情している。
けれど、同情だけでここまで赤の他人を世話できるほど、俺は単純じゃない。
”私は特別なの”
千夏が以前そう言っていたように、千夏は本当に特別だった。
頭痛の種であることと同時に、千夏の未来が笑顔で溢れて欲しいと願っている。
「あ、そうだ」
千夏がパフェを口に運びながら、モゴモゴと話し始めた。
「悟に会ったら言っといてよ。明後日から冥冥さんと出かけるから家にいないって」
「直接言えばいいだろ」
「おねがーい」
喧嘩でもしたのだろうか、と思ったけれど、千夏のわざとらしい顔を見れば、これは気まぐれによる提案だと分かる。
そして、今の俺は千夏に弱い。
「…分かったよ。またビジネスか?」
「うん。ね?冥冥さーん」
千夏が冥冥の腕に絡みついた。
冥冥を千夏を睨み、しばらくするとニヤッと笑った。
「ああ。今日の分をしっかり働いてもらわないと」
「…冥冥さんは払わないくせに」
「私だって少しは出すさ」
それはどうだろうか。
冥冥の言葉は全く信用できない。
「おっと。そろそろ出ないとだな」
「待って。パフェ、かき込むから…」
「落ち着いて食べろ。会計は済ませておくから、ゆっくりしておけ」
「ごち!」「流石だね」
俺はため息ひとつ残して店を出た。
待ち合わせ通りの時刻に間に合うようにしたが、あの悟のことだ。
どうせ遅れてくるだろう。
(…本当に俺は馬鹿だ)
幼くなった千夏には特に弱い俺は、待ち合わせの店の周りにあるデパートで、何か千夏にプレゼントを買うことにした。
確か誕生日が近かったはずだ。
それで、千夏が元通りになったらどれだけいいか。
俺はそこまで期待できるほど自惚れていない。