第38章 心臓
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「言った通りだろう?」
「…ああ」
千夏の影が消えるまで、俺達は慎重に待った。
そして、話を始める。
「それで、千夏を足として使うって?」
「ああ。交流会に参加させる。もちろん、こっち側で」
「…あの状態の千夏を?」
「交流会までには治してもらうよ。夜蛾や五条の力で」
千夏を交流会に参加させる予定は全くなかった。
それはもちろん、アイツらの代の交流会が酷かったことが原因だ。
けれど、今懸念すべきはそれではない。
「やっぱり、虎杖の死が…」
朝、悟を呼び出して様子を聞いた。
やはり、精神的にキているとのことだった。
けれど、冥冥はピシャリと言った。
「違う」
「…?」
「あれは別の要因だね」
「どういうことだ」
冥冥は重箱の蓋を開けて中を吟味。
値段との釣り合いを考えている顔だった。
「宿儺の器が死んだと聞いて、最初に思い浮かんだのは千夏だったよ」
「…」
「なんだい、その顔は」
目の前の人間にそういった情があるとは。
正直驚いた。
「幼児退行した千夏は全く使い物にならないからね。そこは確認しておかないと、ビジネスに影響が出る」
せっかく俺が感心していたのに。
相変わらずハッキリとした酷い女だ。
「私が顔を出した時、千夏は泣いていたよ。理由を聞いたけど、教えてくれなくてね。まぁ、宿儺の器の件だろうと目星をつけた」
「…それで?」
「読みが外れたよ」
冥冥はお吸い物の蓋を開けて、香りを嗅いだ。
「は?」
「だから、読みが外れたと言っている」
「意味が分からない」
「…つまり、千夏は宿儺の器の件で泣いていたわけではなさそうだ」
全く、意味が分からない。
その根拠はなんだと聞くと、急かすなと強く言われた。