第38章 心臓
「交流会は祭りじゃないんだ」
「ふーん」
「俺は覚えてるぞ。お前らの代の交流会を」
「あ、それって倒置法でしょ?」
「…千夏!」
「あーれー」
食事の手を止められ、学長に向かって口を尖らせてみる。
無駄だ、と言われているような目で返されて、私は仕方なく箸を置いた。
「残念だけどね、私にとって冥冥さんの命令は絶対なの」
「なっ…」
「これで分かったかい、夜蛾。説得は無駄だ」
冥冥さんはグラスに入った水を飲み干した。
そして、紙ナプキンで口を数回押えた。
綺麗だ。
「よく分からないけど、私は交流会に参加しないとダメみたい。ごめんね、学長」
なんで学長が落ち込んでいるのか分からないけど、とりあえず慰めてあげた。
頭を数回ポンポン、と。
「千夏」
「何?」
「お願いだから、問題を起こさないでくれ」
学長は私の肩をしっかりと握り、小さく前後に揺らした。
お願いだ、お願いだ、と。
「私、そんな問題児だったけ」
「…色々あった時のお前は、霊長類の中で1番恐ろしい」
学長はグラサンを外して、おでこから顎まで、手で顔を拭った。
「交流会は京都校もいる。なにか起きたら、俺だけでは対処できない」
「そっか、京都校…。歌姫、来る?」
「来る」
「やったぁ!」
「楽巌寺学長もな」
「…私あの人嫌い」
「そんな顔するな」
学長はふっと笑って、私の頭を撫でた。
「交流会中は大人しくしてろよ」
「うん。冥冥さんの言うこと聞いて、大人しくする」
「約束だからな」
「うん!」
学長は優しい顔をした。
その後は、普通に食事をして、普通に帰宅した。
冥冥さんが言っていた仕事は、学長と話してご飯を食べることだったみたい。
冥冥さんがこんなに優しいなんて、本当に珍しい。
一体何があったのだろうか。