第37章 ユートピア
「さて、何から話そうか…」
少し悩んでから、傑は懐から一枚の写真を取りだした。
「あ、この子知ってる」
「私の家族だよ」
1年前、傑の周りにこの女の子達がいた。
言い方が悪いけれど、歪んだ傑も崇拝していたから、彼女たちに殺意を抱いた時もあった。
彼女たちには傑を止める立場にいて欲しかった。
「1つ。私は昔のように無意味な殺しはしていない」
「…意味のある殺しはしてるってこと?」
傑は眉を8の字にして、視線を逸らした。
「0とは、言えないな」
「ねぇ、目を見て」
「でも、その死は必要だったんだよ」
「ねぇ!」
傑の顔を無理やりこっちに向けた。
「それが傑の信じた道なら、目を逸らさないで…!」
傑はいつも完璧な自分を見せようとしていた。
私達が傑を引き止めた時も、傑はとても堂々としていた。
自分の道を決めた人間はこんなにも真っ直ぐなのかと、その点に関しては感心していたのだ。
「千夏…」
なのに、傑は目を逸らした。
罪悪感を抱いているということなのだろうか。
それなら、最初から殺さなければいい。
殺さなければ、いいじゃないか。
「悪い…」
傑は私の背中手を回して、優しく抱き寄せた。
その手は震えていた。
「もう、止まれないところまできてしまった」
「傑…」
「引き返せないんだよ…」
傑が、後悔している。
「本当に子供だった。何があっても、人を殺したら、人の未来を奪ったらダメだった…」
あの時、何を言っても私たちの声は届かなかったのに。
届かなかったのに…!
「千夏…。本当にすまなかった」
私に対して謝っても、意味が無い。
でも、私は今日何度目かの涙を流した。