第37章 ユートピア
「一言では言えないけど…私はあの時とは違う」
傑はとても真剣な顔をしていた。
1年前のものだと思われる傷がおでこに残っていて。
とてもこの顔を疑うことが出来なかった。
「分かった。信じる」
「…ありがとう」
ナイフから手を離して、スカートを整えた。
それでも太ももがはだけていたのか、傑がそっと直してくれた。
「色々と積もる話があるからな。場所を変えよう」
「そうだね。傑、見つかったら即死刑だもん」
「カフェでいいかい?」
「ダメだよ。見つかっちゃう」
「となると…」
傑はわざとらしく考えていた。
私は懐かしむようにその顔を眺めていた。
「千夏が良ければなんだが」
「何?」
「私の家に来るかい?」
傑の発言とは思えなくて、思わず目を見開いてしまった。
それを見て、何故か傑の方が驚いていた。
「悪い。突然すぎたよな」
「いや…。傑がいいなら行く」
「じゃあ、タクシーを呼ぼうか」
「ここから遠いの?」
「そこそこな」
傑は手際よくタクシーを呼んだ。
待っている間も、乗車する時も、相変わらず優しくて。
あんなに非道なことを行った人間とは思えなかった。