第37章 ユートピア
「立てない?」
「すぐるっ…」
なんでここにいるの?
どうして生きてるの?
なんで?
どうして?
「すぐるっ…えぇえぇっ…」
袋を捨てて両手で傑の手を掴んだ。
そして、何度も撫でて存在を確認した。
「暑いな。どこか移動するか」
「うん、うん…」
1年前、悟が傑を殺した。
それは知ってる。
でも、傑はここにいる。
何がどうなって、傑がここに存在できているのかは知らない。
悟が嘘をついたのかもしれない。
実は最初から傑は傑ではなかったのかもしれない。
自分でも何を考えているのか分からないけれど、どうでもよかった。
「泣かないで」
「ん〜…ひっ、むっ、りぃ…」
顔を上げて傑の体に倒れ込んだ。
相変わらずの優しい笑顔で私の頭を撫でてくれた。
「落ち着いた?」
「…ぅぅ」
この声を聞くだけで涙が出る。
昔の殺意はどこにいったのか。
「もう少しかな」
傑が離れようとするから、無理やり引っ張って体を寄せた。
すると、傑は困ったように笑った。
「流石にこれ以上は恥ずかしいよ」
周りを見ると通る人が必ず私達を見ていく。
いつもなら恥ずかしいと思うはずだけれど、今の自分の姿は全く恥ずかしくなかった。
けれど、傑のことを考えるとここにいることが宜しくないことに気づく。
そして、傑に確認することが沢山あることにも気づいた。
「もう、人を、殺すの、やめた?」
「…そのことも話そうか」
「今、答えて」
私は嫌だったけれど、足につけている武器を直ぐに取り出せるように準備する。
傑に関して、スタンスはあの時から変えていない。
傑は危険。
だから、私の大切な人達に手が伸びる前に、傑の命を奪ってでも傑を止める、と。