第36章 不慣れ
*****
「あれれー?これってどういう状況?」
大きく上下する肩。
熱い息。
生ぬるい汗がこめかみを通り過ぎた。
「何で恵と野薔薇がボロボロなの?」
「2人が…襲ってきたから」
精一杯の説明をして、私は唯一の足場であるこの場に座り込んだ。
クレーターに座り込み必死に息をする2人を上から眺める。
「襲う?」
「…コイ、ツが、ムカついた、から…」
野薔薇が答えた。
そして、恵も同じように続けた。
「僕の彼女、凄いでしょ」
そんな声を聞きながら、ペットボトルの水を飲み干す。
そのごみを悟に投げつけて、野薔薇の元へ駆け寄った。
「何で突然…」
キッと睨めつけられ、思わず息を飲む。
「あんたが…馬鹿だから」
「それは許してよ」
「あんたが馬鹿で、どうしようもないくらい…まっすぐだからじゃん」
野薔薇が私の足を殴った。
「少しくらい頼ってよ…」
あんたは師匠でも、先生でもない。
私の友達なんだから。
野薔薇は枯れた声で、精一杯そういった。
「…恵。何があったの?」
「…最初は普通に話してて…」
悟がいなくなってから、この場で起きたことを小さく話す恵。
「…野薔薇。今度一緒に任務行こうか」
「嫌。守られるのは、もう、嫌」
「…じゃあ、強くなってね」
そう声をかけると、野薔薇は勢い良く立ち上がって、部屋を出ていった。
野薔薇の目に涙が浮かんでいたのは、見なかったことにしようと思う。
「ふうん。そんなことがあったんだ」
2人も話が終わったようで、悟が意味深に口元をゆがませていた。
「恵。ごめん」
「別に…」
「野薔薇のこと…」
「ああ、了解です」
昨日まで笑っていた人がこの世界のどこにもいなくなった。
野薔薇はそんな不要な経験を初めてしただろう。
野薔薇が私の前で弱いところを見せるはずがないから、野薔薇のことは恵に任せた。
「さて、僕たちも帰ろうか」
「うん」
久しぶりに悟の手を握った。
今日は歩いて帰ろうと提案すると、悟は快く了承してくれた。
そういう気分だったのだ。