第36章 不慣れ
気持ちを切り替えて、本来の目的を思い出す。
何故部屋を出てきたのか。
恵には野薔薇を迎えに行くと言ったが、それが真の目的ではない。
「硝子、硝子!」
「うっさいな。何?」
実は、先程の千夏との会話で、僕達にとって信じられないことがあった。
「千夏が…僕たちとの未来を望んでた!」
「どういうこと?」
「だから、千夏が僕達と一緒にいたいって言ったの!」
えっ、まじ!?
そんなことって…(涙)
という反応を予想し、鼻声くらいは固いと思っていた。
しかし、硝子はそんな女ではない。
僕はすっかり忘れていた。
「それで?」
「……ん?」
「まさか、それを言うためだけに来たの?」
剣幕がすごい。
目に優しさの欠片も感じない。
「…え?」
「…信じられない」
家入さんは絶賛怒り中。
あれ?
こんな予定では…。
千夏は昔から自分を犠牲にした未来ばかり望んでいた。
そんな未来しか、想像できないと言っていた。
自分が不要な人間だと思っていたからだろう。
いつも自らを犠牲にしていた。
そんな千夏が僕達との未来を望んだと言うのに…。
硝子は馬鹿なのか?
「バカにも程がある」
心の中の疑問を、逆に受けてしまった僕。
硝子は青色のファイルを手に取り、パラパラと捲った。
3分の1程進むと指を止め、視線だけこちらによこした。
「一応報告。例の件、ちゃんと仕事しといた」
「助かるよ」
「…千夏には?」
「言わない。今はね」
言わないというか、言えない。
「正気?」
「正気さ」
死んだ人間が生き返った。
そんなことを千夏に伝えたら、一体どうなる?
今まで数々の知り合いの死を乗り越えてきた千夏はどう思う?
死ぬほど喜び、感極まって泣いてしまうだろう。