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【呪術廻戦】infinity

第36章 不慣れ


*****

部屋を出て、少し…かなり遠くを歩く七海に追いつくよう努力する。


「七海ー」

「何ですか」



声をかけても、用がある素振りを見せても、七海は足を止めない。



「千夏のこと」

「…見たままですよ。呪力を凝縮してぶつけ、部屋に穴を多数開けた。あの精神状況で、私が立っていた場所のみ避けるなんて、本当に器用だと思います」

「僕達が来た時は落ち着いてたけど?」

「部屋を破壊してたのは、最初の10分くらいの話。その後は…まぁ、色々と」



七海はメガネをいじって、話を終わらせた。



「色々って。めっちゃ気になるんですけどーー!」



淡々と歩き、突き当たりを右に曲がった。

視線も向けてくれない。



「…隠すと後々面倒なので言いますが」



七海はネクタイを締めた。



「抱きしめて、キスしました」



抱きしめて、キスしました…。

抱きしめて、キスしました…。

抱きしめて、キスしました…。



「何があったの?」



あくまでも普通に。

先輩として尋ねた。



「五条さんも見たと思いますが、震えが止まらないと言って自分の体を傷つけようとしました。私はそれを見張るために呼ばれたのですから、当然止めました。千夏さんの自傷行為は見たくないですし」



七海は背広のボタンをとめた。



「しかし、私は貴方のように存在のみで彼女を宥めることはできません」

「それで、抱きしめてキスをした、と」

「ええ。ただそれだけです。私の独断ですので、彼女を責めるのはお門違い、とだけ言っておきます」



(ただそれだけ、ねぇ)



「…まぁ、他にも方法がありましたが、灰原の話を持ち込まれて、私も少し動揺したと、言い訳させてください」

「言い訳ってことは、悪いことをした自覚はあるんだ」

「仮にも貴方の恋人に手を出した訳ですから、自責の念はありますよ」



七海の無表情がこんなにも恨めしいことは無い。



「じゃあ、最後に”恋人”として質問。そのキスってもちろん、ライトな方だよね?」

「…ご想像にお任せします」

「え、ちょ、七海?」



足を早めてスタコラと歩いていってしまった。

誰もいなくなった廊下で、僕は少し立ち止まった。



「…マジ?」



そう呟いても、返事をしてくれる人はいない。


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