第35章 むかーしむかしあるところに
「七海ぃ」
「私に聞かないでください」
五条先生は口を尖らせて、腕を組んだ。
「千夏、今のはどういうこと?特に、前半部分」
「そのまんまだよ」
「死人と過ごすってどういうこと?」
「死人?」
「んー、まずいなぁ…」
我慢のし過ぎかな、と五条先生は頭を掻いて、だるそうな声を出した。
「いいかい、千夏」
五条先生は指を折りながら、名前を羅列した。
先程の八乙女さんの言葉の中に会った名前だ。
しかし、その全てではない。
両手の指の波が止まると、五条先生は顔を上げて質問した。
「もっかい聞くけど、今言った人達と過ごすってどういうこと?」
「なぞなぞ?普通に過ごすんだよ。遊んで…」
「無理でしょ」
七海さんはメガネをクイッと上げて、俯いた。
「だって、みんな死んでるじゃん」
反射的か、否か。
八乙女さんが自分の指を引っ張った。
見てみて心配になるほど。
指がもぎれるのではないかと思うほど。
しかし、直ぐに五条先生が止めた。
優しく八乙女さんの手を解いた。
「……震えが、止まらないの」
「だから、指を引きちぎろうって?」
「そしたら、痛みが震えを止めてくれる」
俺はこの場にいていいのだろうか。
場違いな気がする。
「もっかい聞かせて」
「……私は、千春、悟、硝子、七海、歌姫、1年坊主、先生、冥冥さん、真希……」
五条先生が言った分、八乙女さんが述べる名前が減った。
「みんなと過ごしたいから、私はこの生活を捨てない」
呟くようにそう言うと、八乙女さんは俺の事を見てニコッと笑った。
俺が軽く頭を下げると、いつの間にか七海さんが横を通り過ぎていて、部屋を出ていった。
「恵」
「…はい」
「ちょっと席外すから、千夏のことよろしく」
「は!?」
「野薔薇を連れてくるから」
「ちょ…」
「野薔薇にはさっきの話、内緒だからね」
勝手な…。