第35章 むかーしむかしあるところに
すると、五条先生が足を止めた。
1枚の扉の前だった。
札がびっしりと貼られている。
「さて。そんな可能性を秘めた女の子ですが。この扉の向こうにいまーす」
無意識に息をとめた。
「悠仁の死を知って、その感情を全て…」
五条先生が扉を開けた。
中を見た途端、ギョッとした。
「ぶつけてることでしょう」
クレーターのようなものが前後左右上下。
全てにびっしりと。
部屋の中心は酷くえぐられ、そこに八乙女さんが立っていた。
元の部屋の様子は一切分からない。
唯一綺麗に残っていた左奥の角の壁から予想するしかない。
その角には黄色髪のスーツの男が立っていた。
「やぁ、七海」
「遅くないですか」
「ごめんごめん。んで、どうだった?」
「部屋を見れば分かるでしょう」
何をどうすればこんな乱れた部屋になるんだろう。
そして、どうしてこの男達は平然としているのだろう。
これは見習った方がいいものだろうか。
「ちーなつ」
「…あぁ、悟…私、決めたよ」
八乙女さんは息を荒くして、俯きながらこちらを向いた。
黒髪の間から見える目には、人を凍らせる能力があった。
「これから…千春と千秋と千冬と千佳さんと…悟と硝子と傑と灰原と七海と歌姫と1年坊主と…先生と…後ね…」
ズラズラと名前を並べる八乙女さん。
中には知っているものもあったが、知らないものもあった。
その中には俺も、釘崎も。
そして、死んだ虎杖の名前もあった。
「みんなと過ごすためにね……死なないよ、私は。いなくならないよ、絶対に。でもね…やっぱり、人の命を奪うのは良くないと思うから…」
八乙女さんは上を見て、方を上下させて息した。
「アイツらにはできるだけ苦しんで死んで欲しいなって…毎日祈るよ。あはっ…」
最後のは独り言だろうか。
声が掠れて、あまりハッキリ聞き取れなかった。