第35章 むかーしむかしあるところに
「さて、恵。この女の子は今どこにいると思う?」
「そこに向かってるんですよね」
「おっ。なんで分かったの?」
「隠すつもりなかったでしょ」
女の子というのは自分の彼女、八乙女千夏の事でしたー。
と、立派にくだらないネタバレをした五条先生は、まだまだ話を続ける模様。
「女の子が千夏と判明したところで。もうひとつクイズ。今、千夏はどんな状況でしょう」
「…知りませんよ、そんなの」
「千夏は高専時代、体術なんて、呪具の使い方なんて微塵も知りませんでした。10年間で努力したんでしょーね」
「…八乙女さんの体が呪力に耐えられるようになったんですか?」
「惜しい!ある程度扱える呪力量は増えたけど、まだまだ耐えられない。多分、内部的な要素が弱いんだろうね。そこは鍛えようが無い。だから、自分でコントロールを覚えた。ほんと、達人技だよ」
「…で?」
「これを踏まえて。千夏は明らかに強くなったよ。姉の力を借りなくても、1人前に戦えるほどに」
考える。
「だから、姉は千夏の呪力を使わずに済んだ。姉が外にわざわざ外に出て戦う必要はなくなった」
「…あれ。八乙女さんは姉の呪力を使わないんですか?」
「そーだよ。千夏は呪力が豊富にあっても、呪力を使いすぎると体が持たないからね。千夏が感じる限界は呪力の枯渇によるものじゃなくて、体が破滅しそうだよーっていう警報。それに、姉自身も自分の呪力を使ってない。それよりも、千夏の呪力を使わないと千夏が危なかったから」
「ってことは……」
「気づいた?」
「こんなのアリっすか」
「アリも何も、現実だからね」
五条先生は指を鳴らして、自慢げに言った。
「千夏がフルパワーで戦えるようになって、姉が本気を出して共闘したら。面白いことになるよ」
「全く面白くないです」
「姉の強さは未知数。千夏すら知らない。上は今でも”八乙女千夏”の強さが、”八乙女千春”の強さだと思ってるかもしれない。そこで、千夏が、千春が、命を捨てて本気を出したら…」
五条は喉を鳴らして笑った。
「きっと、間違いなく、僕以外は死ぬだろうね」