第35章 むかーしむかしあるところに
「女の子は怒り、悲しんだ。そして、暴走した。女の子は全ての呪力を解放した。もちろん、体はボロボロになる。本当に危なかったらしい」
五条先生はわざとらしく息を吐いた。
ふぅ、と。
「女の子の暴走を止めたのは、皮肉にも相手側。ナイフで腹をひとつき。結構な致命傷だった。でも、女の子には姉がいた。姉が女の子の呪力を治癒に使ったおかげで、何とか生き延びた。女の子の呪力はほぼ枯渇。それでも、動けたのは強靭な精神力のおかげだ」
「…結局、呪力を放出しただけですか?」
「うん。”放出しただけ”。それで呪力が枯渇」
「…ヤバすぎでしょ」
「そうさ。おかげで周りの建物は半壊。道路もボコボコ。術式を使ってなかったのと、一般人に被害がなかったのが救いだよ」
普通、呪力を体から放出するなんて出来ない。
聞いたことも無い。
呪力量が多い人は呪力が立ち上ると聞くけれど、そういうことではなさそうだ。
そこにも何か裏があるようだが、五条先生は説明してくれなかった。
今は八乙女さんが特異体質であると理解しておこう。
「それをもって、女の子の死刑が決まった。そりゃあ、元々殺そうってなってたんだからね。そうなることを分かっていた女の子は、見知らぬ地に逃げた。でも、逃亡も虚しく、死刑は執行された」
「…表上は、と」
「そう。詳しいことは知らないけど、どうやら取引があったみたい。んで、女の子は身を隠してひっそりと生活した」
その生活中にも色々あったようだ。
育ての親との再会。
最愛の姉と大喧嘩。
いくつため息をついても胸が空かない。
気休め程度の深呼吸をして、咳払いをした。