第35章 むかーしむかしあるところに
「そこに例のイケメン男の子が。なんと、男の子は術師だったのだぁ!」
はい、確定。
「そこから色々あって、男の子と女の子は高専に入学。女の子に友達が出来ました」
色々って…。
時折雑になる話に、俺は大袈裟にため息をついた。
五条先生は全く気にしていない。
「女の子って…コーヒー牛乳好きでした?」
「そうかもね。あとサザエさんが大好きだったかもしれない」
「…それ、八乙女さんの話ですよね」
「ある女の子の話だよ。こっからが面白いんだから。邪魔しないで欲しいなぁ」
人の人生を面白いと言うなんて。
しかも、自分の恋人の人生を。
五条先生は先程と同じように、明るい声で話を続ける。
「女の子は普通とは違う青春を味わい、固まった表情筋もほぐれ、感情豊かに日々を過ごしました。しかぁし!女の子は上層部に危険視され、隙あれば殺されそうになります」
五条先生が間を取る。
「分かりやすく言うと…悠仁のように」
胸がチクッとした。
その痛みはどこから来たのか。
俺は知らない。
一瞬真顔に戻った五条先生も、すぐに表情筋を使って。
相変わらずの明るい声出した。
「しかし、女の子には味方がいました。友達はもちろん…最強の姉がね」
先程から、死んだとされる姉が登場してくる。
よく分からない。
酔っ払った八乙女さんから何か聞いたことがある気がするが、思い出せない。
「しばらくすると、女の子を殺すのは不可能だと判断し、男の子の元に暗殺依頼が入ってきました。もちろん、男の子はクソ喰らえと言って、断りました」
「…それは初めて聞きました」
「そーだろーね。んで。そんな生活が普通になった女の子。次第に、上も女の子を術師として扱い始め、平穏な日々が、普通の術師として生きていける兆しが見えた頃。またまた事件が起きちゃいます!」
五条先生の声色が場違いだ。
そんな声で話すようなことではないし、勝手に話していいものでもない。
八乙女さんの過去は悲惨だと薄々感じていたが、想像以上だった。