第35章 むかーしむかしあるところに
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「いねーじゃん」
「…お手上げだな」
「ったく。ワンコールで出ろっつーの!!」
釘崎が携帯に勢いよく垂直に指を突き立てた。
カクっとなったようで、痛そうに人差し指を胸に抱えていた。
「こうなったら、五条先生に…」
連絡しよう、と携帯を取りだしたところで。
「「あ」」
タイミングよく五条先生が現れた。
「やぁ、どうした〜?」
「先生。アイツは?」
「あぁ。探してんの?」
「はい。どこにいるか知ってます?」
「知ってるよ〜。ついておいで」
五条先生が5歩、俺達が2歩歩いた時。
思い出したように、五条先生は指を立てた。
「そうだった。野薔薇〜、今から伊地知の所に行って、荷物持ってきてくんない?」
「荷物?」
「行けば分かるから」
そう言って、五条先生は釘崎の体を回転させて、背中をぽんと押した。
そして、俺の背中を押した。
「ちょ、伊地知さんはどこに…」
「よろしく〜」
「おぉい!」
すたこらと逃げる(去る)五条先生に押され、俺も猛スピードで廊下を走る羽目に。
明らかに野薔薇をさけたことは俺も、そしてきっと釘崎も分かっている。
「そこ左ね」
角を曲がってスピードを落とされ、普通に横並びに歩き出した時、俺は話を催促した。
とぼける五条先生を睨むと、いつもの軽薄な顔で宥められた。
「なんで釘崎を遠ざけたんですか」
「野薔薇はねぇ…千夏の大切な子だから。あ、恵が嫌われてるってことじゃないからね」
「別に嫌われてもいいです」
「そう強がらないで〜。野薔薇はちょーーっとだけ特別みたいなんだよ」
だから、俺は気にしないと言っている。
八乙女さんに好かれようと、嫌われようと、特に…。
「それで、話は?」
「オホン」
咳払いをした五条先生は、人差し指を立ててクルクルと回転させた。
そして、昔話をしてあげようと言った。