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【呪術廻戦】infinity

第35章 むかーしむかしあるところに


建物を抜け、歩き続ける。

その間、私は何も言わずに腕を振りほどこうと必死だった。



悟は後悔していないのか。

自分達がいない間に手を打たれて。

また…1人死んだ。

作為的に…!!!!



「気持ちは分かる」

「じゃあ、離してよ」

「大人しくする?」

「するわけないでしょ…!」

「じゃあ無理」



広い敷地の端。

森との境界を渡った。

近くにあった木陰にあるベンチが見えた。

けれど、そこに近づくことはなく立ち止まり、そして空いた手で顔を掴まれた。



「落ち着け」

「無理」

「お願い」

「…なんで」

「泣くな」



落ち着け、お願い、泣くな。

なんでそんなことを言うんだ。

”その顔で”、どうして…!!



「私なら…皆、殺せる」

「それをするなら…千夏が、それを言うなら、僕は敵になってみせる」



敵。

そう言った悟は、唇を噛み締めていた。



「…悟とは、戦いたくない」

「僕もだ。千夏の敵にだけは、なりたくない」



顔を包んでいた手が取れた。

涙で濡れた手をそのまま私の目の上に重ね、視界が塞がれた。

所々から光が漏れているな、と感じた時、温かくて柔らかいものが唇に落ちた。

一瞬の暗闇に驚いた目を数回瞬きさせると、悟はアイマスクを下げた。



「考えは?」

「変わっ…てない。でも、再考の余地はある、かと」



私がそう言っても、悟は私の腕を掴んで離さなかった。

悟は瞬きひとつせず、私の目を見てきた。

風で木々が揺れて、悟の瞳もキラキラと光る。



「…私には、この怒りを、悲しみを、後悔を…!!アイツら以外の。どこに向けていいか、分からない」



頭が破裂しそうだ。

ボンっと。

熱い。



「よく我慢してると思うよ」

「悟、もね」

「…僕の言うこと、聞いてくれる?」

「強制して…。悟の命令じゃないと、私はきっと、人を殺してしまう」



悟は私の腕を離した。

私は逃げなかった。

海の…水中から空を見上げた時の、あの幻想的な美しい色の瞳が悲しそうに揺らいだ。

だから、私は悟の体にもたれかかった。

次に目を開けると、そこは見知らぬ湿った暗い部屋だった。


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