第35章 むかーしむかしあるところに
*****
「は?」
私は立ち止まった。
階段を12段上ったところだった。
「悠仁が死んだ」
「は?」
「だから…」
悟が私の肩に触れようとすると、弾かれた。
痺れると言って、手をプラプラさせていた。
「何故」
「詳しいことは学長のところに行ってから」
「今、教えて」
握力検査をするように、悟の腕を握った。
悟は痛いとは言わなかった。
「…これは僕の予想だけど」
「構わない」
「千夏が思ってる通りじゃない?」
落ち着け、と言うように、悟は私の腕を握り返してきた。
振り払おうとした訳ではないが、少し腕を動かすと、力が更に加わった。
「今は事実確認が先だ」
「…先生が嘘ついてるって?」
「学長ね」
「…学長が嘘ついたってこと?」
「可能性はある」
とりあえず呪力を抑えようか、と言われて、私は引かれるまま学長に会いに行った。
学長の話は、大体悟から聞いたものと同じだった。
細かいところは初めて聞いたが、虎杖悠仁が死んだことは変わらなかった。
そこには硝子もいた。
いつもの調子で遺体を見るか聞いてきた。
私は笑顔で言ってやった。
もちろん、と。
その間も、悟は腕を離してくれなかった。
「…」
この場所で知り合いが眠っているのを見るのは、初めてではない。
それ故に記憶が蘇る。
腕に力が加わった。
「手、離してくれない?」
「ごめんだけど、無理」
「千夏、落ち着きなよ」
硝子も私の体に触れようとして、弾かれた。
やっぱり手をプラプラとさせていた。
「ったく。五条、任せたよ」
「はいはい。千夏、行くよ」
私は木偶の坊になったようだ。
腕がちぎれそうになった。
「千夏」
「何で、止めるの?」
「…行くよ」
一段と強く引っ張られ、私の足は動かざるを得なかった。
「千夏。あんたは私とまた遊びに行くんだからね」
そんな硝子の言葉は、私の耳を通り抜けた。
いい加減懲りろ、という学長の言葉だけは、耳に残った。