第35章 むかーしむかしあるところに
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がたん、がたん。
規則的に襲ってくる揺れには既に慣れ、隣の彼女は居眠りを始めた。
元気な子供達と遊んだのなら、当然の眠気だ。
プルルルルル…♪
千夏の携帯の着信音だ。
勝手ながら体をまさぐり、画面を見させてもらうと、予想通りの人からだった。
「もっしもーし」
『おい!今どこにいるんだ!』
「昨日の朝連絡したよね、そのまんまですよ」
千夏の携帯から僕が出たことに対する指摘はなく、学長は言葉にならない声を出した。
「千夏は隣で寝てます。仕事は既に終わってます。今から帰国予定。はい、他に聞きたいことは?」
『千夏が寝てるのは都合がいい。悟、よく聞け』
国際電話だからなのか、学長はいつも以上に端的に話した。
『虎杖が死んだ』
「…はい?」
僕がいない間に、そっちであったことを聞いた。
千夏が眠っていて都合がいいという意味がよく分かった。
『千夏に伝えるかどうかはお前に任せる』
「流石に日本に着くまで言えないねぇ。拘束具持ってないし」
『詳しくは戻ってから』
「了解」
電話を切ると、昨日の晩から何度も通知が来ていることがわかった。
自分の携帯の方も同様だった。
「ん…」
「お願いだから、まだ寝ててね〜…」
催眠術をかけるように、千夏の頭を繰り返し撫でた。
もし、このことが千夏に知れたら、どうなることか。
考えただけで笑えてくる。
千夏が1度寝たら起きないタイプの人間で助かった。
ホテルに寄って荷物を受け取り、再びタクシーで空港まで向かっても、千夏は起きなかった。
千夏が起きたのは空港に着いてから。
もちろん、例の件は千夏には言わなかった。
「もう帰るの?」
「別の仕事が入ってね」
「私も?」
「んーん。とりあえず、僕だけ」
「とりあえず…?」
何かを勘づいた千夏は、僕のことを疑っていたが、正解にたどり着くことは無いだろう。
…僕が伝えるまではね。