第35章 むかーしむかしあるところに
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よく晴れた日の事だった。
村の子供達が広場に集まっていた。
どうやら、昨晩からこの村に観光客がやってきていたらしい。
子供達は異人に興味津々で、日が昇るや否や観光客を取り囲んだ。
彼らは1週間ほど前にこの地にやってきて、行けるところまで散歩しているらしい。
その割には荷物が少ないと思ったが、数キロ先の街に預けていると聞いて、納得した。
彼らを乗せてきたタクシーの運転手は、彼らを気前のいいお客さんだと言った。
「あの人たちね、魔法使うんだよ!」
「そーなのねー。楽しい?」
「うん!ぎゅーんってなるの!」
彼らが悪人でないことは、子供達の顔を見れば分かる。
魔法と呼ばれるものが何なのかは知らないが、危ないものでないのなら別にいい。
しばらくすると、観光客が私の家にやってきた。
娘が連れてきたようだ。
彼等は日本という国から来たカップルだとか。
仲がいいようで、とても微笑ましい。
この地に伝わる伝統の昼食を提供すると、2人ともニコニコして平らげてくれた。
そして、男が先程と違う言語を使って何か言っていた。
残念ながら、私の家は貧乏で学びを得られてない。
この地域で発展した言語しか、私は使えない。
その事をタクシーの運転手を通じて伝えてもらうと、運転手を通じて食事のお礼を言ってくれた。
食事が済むと、子供達は直ぐに彼等と外に出て遊び始めた。
特に気に入ったのは女の人の方らしい。
彼女が言っていることは男の人を除いて理解していないが、子供達は全員大笑いしている。
彼らの国で流行っている遊びであろう”うぉにごこ”というもので遊んでいるらしい。
子供達が遊び疲れた夕方頃。
彼等はタクシーに乗って去った。
彼等は…いや、彼女は去り際に私に向かって何か言った。
当然、私は理解できなかった。
今度誰かが…彼女の言葉を理解できる人がやってきたら、聞こうと思う。
だから、それまで正確に音を覚えておこう。