第34章 諦め半分、夢半分
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俺は千夏に普通の生活を送って欲しかった。
一般的な教育機関で学びを得て、やりたいことをやって、大切な人を見つけて、恋に落ちて、幸せな家庭を築いて、家族に見守られながら人生に幕を下ろす。
その生き方が幸せかどうかは千夏次第だが、呪術師として生きていくよりは幸せに違いない。
だから、俺が頑張ったところで、どうしても千夏を幸せにできない。
けれど、千夏の力がバレてしまい、呪術師として生きていく他ないとなってしまった。
そうなってしまえば、俺が千夏を幸せにすることは可能だ。
申し訳ないけれど、俺は少し嬉しかった。
けれど、千夏は呪術師として致命的なアイデンティティを持っていた。
命が消える度に震えが止まらないと言う。
千夏にこの世界は厳しすぎた。
それでも、千夏には千夏でいて欲しいから、初めての友達を混じえて色々なことをした。
皆でお花見をしたり、制服コスプレをして遊びに行ったり。
普通に呪術高専にいたらできないことを、色々と試した。
千夏に青春を味わせてあげたかったから。
それに、俺には千夏の笑顔が必要だった。
自分のアイデンティティを恥じるべき点であると認識してしまった千夏は、千春の真似をしだし、中々笑わない子になっていた。
だから、こういう遊びの場で見られる千夏の屈託のない笑顔が、とても貴重だった。
そして、遊びと任務を繰り返していく内に、徐々に千夏は日常生活でも笑うようになった。
俺はそれが嬉しかった。
とても、嬉しかったんだ。
『すっごく綺麗な目だね!』
あの時、千夏が俺に全てをくれたように。
今度は俺が千夏に全てを与える番だ。
そう思っていたのに。
やっぱり俺は千夏に関わってはいけなかった。