第33章 紙一重
「この子に変なことを教えないで」
「変なことじゃない。いずれぶつかる壁でしょ。貴方も分かってるでしょ?野薔薇は…」
「少し黙りなさい」
おばあちゃんは野薔薇に部屋を出るように言った。
それを私は止めた。
結果から言うと、野薔薇は部屋を出なかった。
私の服を掴んで、動かなかった。
「…身の上も提示しない貴方がが、偉そうに言うんじゃありません!!」
部屋が震えた。
確かに私に非があるが、私にも色々と事情がある。
「私は…術師です」
「話を聞いていれば分かります。貴方はこの子を術師にするつもりですか」
「野薔薇が望むのなら」
「いけません。この子には術師は向かない」
「はっ…何を」
私は首を振って笑った。
野薔薇には才がある。
どんな時でも残酷に命に立ち向かう勇気がある。
「野薔薇。貴方は術師になってはいけません」
「何でよ」
「術師の世界は酷いもの。関わらない方がいい」
「それは私が決める。おばあちゃんが決めないで」
野薔薇の姿勢に触発され、元々予定した会話に戻す。
「呪術高専は術師の推薦があれば、比較的楽に入学できます。貴方ほどの方でしたら、野薔薇の入学は固いです」
「誰が推薦するもんですか」
おばあちゃんは口を手で押えて、喉を鳴らした。
私は野薔薇の頭を撫でて、ゆっくりと野薔薇の手が離れていく様子を見つめた。
そして、音を立てずおばあちゃんの着物の胸元を掴んだ。
「私は部外者で、礼儀も知らない愚か者。人に頼み事をする態度でないことは分かってる。でも…余裕がないんだよ」
おばあちゃんは反撃してくるかと思ったけれど、何もしてこなかった。
よく見るとおばあちゃんの両手両足を千春が固定している。