第33章 紙一重
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あれ。
ここは。
どこだ?
「…野薔薇?」
「っ…!」
右手には小さな野薔薇の掌。
左には何もない。
「な、何?」
野薔薇の顔は怯えていた。
何に?
もしかして、私に?
「…あぁ、そっか」
周りを見る限り、私が大暴れしたのだろう。
徐々に記憶が鮮明になっていく。
買い物から帰った家の人があの惨事を見て、私を疑って批難して。
追い出されるようにここに来て、暴れて。
偶然野薔薇がやってきて、何か声をかけて。
今、こうして並んで歩いている。
「野薔薇の家に行くんだっけ?」
「そ、そう…だけど」
「おばあちゃんに話を通さないとね」
「う、うん…」
私はこれから海外に行く。
冥冥さんと合流して、しばらく生きようと思う。
冥冥さんがそれを了承するかは分からないけれど、多分大丈夫だ。
「野薔薇かい?」
「あ、うん…」
野薔薇のおばあちゃんは、絵に描いたような年寄りだった。
私と野薔薇の様子を見て、おばあちゃんは細い目を微かにあけた。
「この人、私の友達で…」
「友達?随分歳が上な気がするけれど」
「そうだけど、友達」
暗くてオレンジ色の光だけが頼りの6畳程の部屋。
木の匂いがして、線香の香りもする。
「単刀直入に言いますね」
野薔薇がビクッとして、私を見上げた。
私はゆっくりと微笑んだ。
すると、野薔薇は一歩下がって、私の後ろに隠れた。
「これから野薔薇に術師のことを教えてあげてください」
おばあちゃんは眉をひそめて、私を睨んだ。
「おばあちゃん、術師でしょ?色々教えてあげて。それで、野薔薇が術師になりたいって言ったら、それを応援して。東京に行かせてあげて」
おばあちゃんはため息をついて、だるそうに首を振った。
赤の他人が口出しをしないで欲しい、と…。