第33章 紙一重
「ここに隠れてたのか。処刑されたって聞いてたから、驚いたよ」
「…何で」
「あぁ、この男か?本当は話し合いに来たんだけどね。なんと言っても金は出せないの一点張り。それなら用済み。面倒だから殺した」
とても友好的な彼。
棒立ちの私を抱き寄せて、頭を撫でてきた。
「すまないね。千夏の家族と言ってくれれば、見逃してあげたかもしれないのに」
「傑…。あんた、何してんの」
「今とりあえず力をつけてるよ。具体的には金の源泉確保」
ペラペラと。
思わず笑ってしまうほど、彼は今の自分の状況を話した。
会うのは1年ぶりくらい。
彼は少し明るくなったみたい。
「千夏は元気そうだね。嬉しいよ」
「…はっ。何言ってんの」
私は持っていたナイフで傑の頬を目掛けた。
「おぉ、怖いな。今は機嫌がいいから、許してあげよう」
「殺すよ」
「無理だね」
傑は体を離して、呪霊を呼んだ。
鳥型のものが森の中から現れた。
その上には女の子が2人乗っていて、片方が傑に手を振った。
「私の家族だ」
傑が呑気に会話を続けようとしても、私は終始ナイフで傑を狙っていた。
全て避けられたけれど、無意味な攻撃だと分かっていたけれど、ナイフを握り続けた。
『夏油、傑』
「…あぁ、千春か。久しいね」
何故か千春が表に出て、傑に話しかけた。
私は戸惑いながらも、傑の喉を狙い続けた。
『お前は…今でも術師の世界を作ろうとしてるのか』
「もちろん」
『…千夏を誘うのか』
「流石だね。その通りさ。ここで会ったのも運命。千夏を勧誘しようと思って」
傑は私の両手を握って、視線を合わせてきた。
ナイフが落ちた。
落とした。
「どうだい?私と一緒に来ないか?千夏がいれば…」
「ざけんなっ!!!!」
傑の手ごと両手を上げて、傑の首を打った。
何度も何度も、手を振り上げては傑の顔付近を殴った。
けれど、その内きちんとダメージを与えられたのは、ほんの数発。
傑はニヤニヤして、残念だよ、と呟いた。