第33章 紙一重
「そういえば、千春の誕生日がもうすぐだ」
「もうすぐ4月だもんね」
「ふふ…懐かしいなぁ。千夏に話したっけ」
「何を?」
「千春を拾った時のこと」
首を横に振った。
すると、千佳さんは懐かしそうに窓の外を眺め始めた。
「千春はね、4人の中で唯一実の親から手渡されたんだよ」
「…え?」
私の横では千春がじっと千佳さんを見つめていた。
「じゃあ、千佳さんは…千春の実親を知ってるの?」
「うん。あれぇ、話したと思ったんだけどな」
流石千佳さん。
適当だ。
「”突然すみません。私の娘を育ててくれませんか?”って言われてね」
「そ、それで了承したの?」
「うん。だって、断る理由なかったし?相手も物凄く…切羽詰まってる様子だったから」
そこまで話すと、千佳さんは奥のクローゼットの下にある引き出しから、青い封筒を取り出して欲しいと言った。
言われた通りにすると、千佳さんはその中身を読むように言った。
「それはね、千春のお母さんから貰った手紙」
千佳さんの言葉に、千春は目を丸くして、私より先に手紙に目を通した。
「何書いてあるかよく分からないけど…。千春に見せたら分かるかなって思って。いつ見せるか迷ってた時に…あんなことに…なって」
爪をかみ始めた千佳さんを心配する様子はなく、千春は黙々と手紙を読んだ。
私は千佳さんの背をさすっていたので、全く読む暇はない。
千佳さんが落ち着いてきて、私も読もうと思ったけれど、既に手紙はボロボロ。
千春が破ってしまった。
「ちょっと、何すんの」
『…ブツブツ』
「千春?」
『……少し1人にして』
千佳さんはそろそろ休息が必要になってきたので、私はまた来ると言って、八乙女家を後にした。
帰り道もずっと千春は考え事をし続けた。