第33章 紙一重
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「千佳さーん!」
「あら〜。今日も来てくれたのね」
「千佳さんに会いたいもん!」
千佳さんは普段からベットの上にいた。
移動する時は車椅子。
歩けないわけではないけれど、ストレスを感じるらしい。
「あのね、あのね!」
「落ち着きなさいって。もう19歳でしょ?」
「そうなの!そこで提案なんだけど、今度一緒に買い物行こうよ!」
「買い物…?」
「そう!千佳さんと出かけたい!」
そうねぇ、と言って、千佳さんは首を捻った。
「…約束はできないよ?」
「いいよ!ずっと先になってもいいから、絶対に行こうね!」
「ふふ。分かった。いつか行こうね」
最近、千佳さんの体調が優れない。
それを理由に門前払いをされることが多かったため、千佳さんに会うのは久しぶりだった。
愛華はというと、先月お母さんが待つ東京へ戻り、今は看護師として働いている。
時折通話をしては、毎日大変だと愚痴を零していた。
「そっかぁ。千夏も19歳なのねぇ。この冬が明けたら成人か〜」
「そうだよ!大人の女性!」
「この子達も…大人だね」
私の横に座っていた千春達の存在を確かめるように撫でる。
ハッキリと見えているわけではないらしいが、千春は認識されてとても嬉しそうだった。
千秋と千冬もいるけれど、2人は数ヶ月前から自我を保つことが難しくなっていたため、千春が眠らせて姿だけ浮かばせていた。
「あっ、ちょっとトイレ行ってくるね!」
「はいはい」
滅びた過去は完全に元には戻らない。
けれど、私は今の現状に満足している。
恋愛とも友情とも違う愛情の形に、私は幸せを感じていた。
「ふふふーん…♪」
悟達に会えなくて、とても辛い。
けれど、その絶望の中で1番…。
考えられる内で1番の幸せが、今この瞬間、具現化されている。