第33章 紙一重
「僕も…同じことを思ったよ。千夏とアイツががいなくなった時、同じことを思ったよ」
「…」
「辛いよね」
アイマスクを首まで下げて、直に千夏の顔を見た。
千夏の顔が少しばかりほぐれた。
やっぱり千夏はこの目が好きみたいだ。
「千夏はいつの話をしてるの?」
「…昔の、話」
「どのくらい昔の話?」
「……の、ばらと会った、とき」
「野薔薇と会った時、何があったの?」
「……ちょっと、待って」
千夏は僕の方に手を置いて、深呼吸を2回した。
下を見たまま1分ほど固まると、千夏は再び話し始めた。
「野薔薇の、住んでたところの近くに、千佳、さんの家があった」
「そーなんだ」
「千佳、さん。心の病気で。調子のいい日は、毎日会いに行った」
「…そっか」
千佳さん。
しーさんと同一人物だろう。
心の病気というのは、千夏の姉達に起きた事件が原因だと推測し、それが正しいことがその後の話で分かった。
「そんなことがあったんだ。僕もいつか千佳さんに会いに行きたいなぁ」
「…」
千夏が大好きな人に会いに行きたいと思うのは自然な事だと思う。
それを単に口にしただけなのだが、千夏の顔が酷く歪んだ。
「…僕、マズイこと言った?」
千夏がこくりと頷いた。
「千佳さん。死んだ」
先程までの涙が嘘のように、千夏は真顔でそう言った。
「自殺した」
「自殺…」
「ベランダから飛び降りた。私が部屋に入った時には、既に足をかけてて、間に合わなかった」
千夏は恐ろしい程に淡々と話し続けた。
「家の人には、私が突き落としたって言われた。千佳さんから離れたくなかったけど、離れるしかなかった」
「…」
「気づいたら、山を越えてた。野薔薇達とよく遊んだ場所にいた。けど、そこにあったはずの木が消えてた。根元から削がれてた」